「家事動線」を本気で考えたら、本当に動線が必要なのか分からなくなってくる。

TV出演や多数の著書を出版されている料理研究家(インテリアコーディネーターもされている)のご自宅を取材した時、大変光栄なことにお手製の夕食をいただきました。

料理されている間、私は写真を撮りながら先生とお話をしていたのですが、この先生のキッチンはよく言われている「動線」というものが感じられないのです。

一昔前は、

  • 冷蔵庫から出し
  • 野菜を洗い
  • 材料を切り
  • 火にかける

というものが「料理の動線」でした。

でも、この先生の場合、冷蔵庫は奥まったところにあり、シンクは冷蔵庫から一番遠いところに、次に冷蔵庫に近づくように材料を切る場所、コンロ、という並び方でした。料理中はあちこちによく動きます。前菜からデザートまで5品ほど作っていらっしゃいました。

お家が古くて、動線が考えられていなかったわけではありません。

ご自身のデザインでトータルリフォームをされたばかりなのです。

私も料理が好きなので実際の作業を見ていると、先生のキッチンは動く道ではなくて、

置き場

がしっかり確保されていることに気づきました。

一品しか作らないなら、一動線でもいいですが・・・

料理というのは単純に、冷蔵庫から出して、洗って、切って、焼く、なんてものではありません。1食に一品しかつくらない、または簡単な料理ならこれで良いと思います。

でも、通常は数品の料理を作るはず。
となると、料理ごとに材料を分けておいておく必要があるし、1つずつ作るなら、後でまた冷蔵庫に戻るかもしれないです。

ただ、もう一つ大事な要素もあります。
野菜炒めを例にとって考えると、まず決定的なのは

個人の家庭にあるコンロの火力では、家族全員分を作ることができない。

ということです。
水分が飛ばないのでズブズブと野菜煮のようになってしまうんです。
それならどうすればよいのか?

残念ながら一人分、二人分と分けて料理する必要が出てきます。
私の自宅のコンロでは二人分が限界です。3人家族なのに。(^_^;)
そして、出来たところから皿に載せていく。

この時必要なのは、家族分(その時食べる人の人数)だけ皿を展開しておく場所です。でも、材料を切る場所には次の皿用の材料がまだ置かれているわけですから、それに加えて主菜用の大きめの皿が家族分必要です。一人で作っているなら皿を積んでおくことになります。一つ盛り付けてはフライパンを置いて、盛り付けが終わった皿を移動し、次の皿に盛る・・・ちょっとイライラしますよね。

ではどこにおけばよいのか?

この置き場が作られていないキッチンが意外と多いんです。

さらに、料理の種類によっては肉を先に炒めておく、野菜を先に湯通しして横に置いておくなど、

置き場って本当に困る!

それが、対面キッチンであれ、I型のキッチンで壁に向かって設置してあろうが、アイランドであろうが、料理する時に必要なのは冷蔵庫からの距離や動きの無駄さではなくて、置き場なのではないかと思うのです。

料理していていつも思うのは、コンロの周りの置き場の少なさ。

どんなデザインのキッチンを見ても、メーカー製でも“オリジナル”でも、

「キッチンって、なんで全部真っ直ぐなんだろう?」

もちろん、金額の問題があるのは理解していますが、一度しか無い家づくりなので少しだけ・・・お金を出せばよかったというのが私の反省です。そもそも作った当時にそんな考えが一つもなかった、という事実への反省でもあるんですが。

例えば私の家のキッチンは向かって左がコンロです。
もしコンロが斜め、つまり左側が前にせり出すようについていたら、すごく便利なのにと思うんです。奥にも左側にも置き場が出来る。じゃ、L型にすれば?ということでもないんです。場所的にL型を置けなかったのです。

にんにくの香りを油に移す作業をする時、私は食後の臭いがしないよう、にんにくが揚がったら出してしまいます。その小皿を置く場所にいつも困っているんです。(笑)

動線ってあまり必要ないのかも(料理に関して)

料理にたいしての取り組み方によって異なるとは思いますが、もしかすると奥さまが必要なのはアイランドキッチンでもなんでもなくて、

キッチンと同じ高さの移動式のカート

なのかもしれません。
それを上手に収納できるようにして(下をゴミ箱置き場にするとか)必要な時に

置き場

を確保できるようにすること。
この方がひょっとすると動線より大切なことかもしれません。

是非一度、打ち合わせの時にでもお客様に聞いてみてください。