中小企業と呼んでいいのか悪いのか、それより「ブランド化」という観点でこの「激落ち君」を見てみよう。
■ 大ヒット、激落ち君
メラニンフォームは激落ち君が最初の商品というわけでもないが、今や他社の同種の製品を買う場合にも
「激落ち君買おう」
と代名詞になっている。ブランド化の観点からは、代名詞になれば大成功と言える(ウォークマンに見られる)のだが、これもその例の一つだ。一時期の大人気は多少落ち着いた感があるが、販売会社にとってはそれも計算済みのようだ。その点には後程触れる。
■ 初めて見た激落ち君
僕が激落ち君を初めて見たのは、近所のホームセンターだった。素人っぽいイラストに、極太のゴシック体ロゴ。隣にもメラニンフォーム製品があったが、何となくドイツ国旗の激落ち君に目が行く。包みのビニールを剥がしてしまえば、全く特徴のない真っ白な四角いスポンジなのだが、特徴が無くなればより簡単で覚えやすいネーミングのものに製品イメージは固定する。だから、他社のメラニンフォームも包みを剥がしてしまえば「激落ち君」になってしまう理由はここだ。
他社が仮に「お掃除消しゴム」と命名しても、既に完全に定着した文房具の”消しゴム”が存在するため、「”消しゴム”どこにある?」「あの掃除に使うきれいになるヤツ」と、いちいち再説明せねばならない煩わしさがある。これでは定着しない。
日本人にとって、ドイツはメルセデス・ポルシェの国で技術を思わせる。ところが、これはスポンジ。別にドイツ製でなくてもいいようなものだが、「イメージ」とはそういうもの。当然ウソをついてはいけないが、イメージ的に自社製品を良く見せる可能性のある要素を探すのは、戦略的に正解だろう。
■ ファミリー戦略の利点
この激落ち君にはファミリーがいる。同じメラニンフォームなのだが、サイズ・形状・使い方で「パパ・ママ・キング・ベイビー・・・」と多種多様。「激落ち」の部分をブランド化することで”君”にこだわらない戦略を打ち出せるようになっている。この手法も良い。
なぜなら通常、激落ち君のような製品がヒットすると、あまり想像力のない後追い会社は、
「あっちが”君”なら、こっちは”ちゃん”でどうや?例えば『超オチちゃん』とか!」
(↑頭が全く機能していない)
「おお!それなら便乗で売れるかも!」
(↑便乗は決して悪い手ではない。一番賢い方法にもなりうる)
「これが逆転の発想ってやつだ」
(↑「パクリ隠し」とも言う)
と相づちが入るかどうか分からないが、この手の”逆転の発想”が出てくる。(「サザエさん」に影響されて、野菜の名前で統一したマンガなんかがあるのと同じ発想だ)
しかし、この激落ちファミリー化戦略は、それらの手段を封じてしまっている。追随する会社は、もっと想像力を働かせないと、単なるまがい品のレッテルを貼られてお終いなのだ。
それとなくブランドの幅を広げ、多様な掃除場所の「時と場合」に対応しつつ、消費者の目に触れさせ続ける。正当派の戦略だと言える。
■ 現在の新製品展開
面白いのはここからだ。
次々出てくる「激落ちブランド」の新製品だが、最近の製品は様子が変わってきている。従来のメラニンフォームに把手をつけ、風呂掃除がやりやすいタイプ、力が入れやすいタイプといった変型タイプに加え、もはやメラニンフォームにとどまらない商品が次々出ている。それどころか、主力のメラニンフォームと、特性で真っ向からぶつかるような製品も出ている。それは、特殊繊維を使った、洗剤無しで掃除が出来るクロスだ。
■ 特性がよく似ていて、共食いしてしまう可能性も消す!
メラニンフォームは、こするうちに消しゴムのように減っていく。しかし、このクロスは減らない。より耐久性が強く、汚れもよく落ち、洗ってくり返し使える。しかし、お客さんはこの会社が推賞する「使い方」に素直に従う癖がついてしまっているので、両方の特性を生かした「使い方」をお客さんに伝えることで、どちらの商品も共食いすることなく、あたかも別用途の製品であることをアピール出来る。つまり両方買わせることも可能ということ。
■ なぜお客さんは「使用法」に素直に従うのか?
メラニンフォーム(激落ち君)発売当時、これは新しいタイプの素材であったため、お客さんは「これどうやって使うの?」と裏の説明書きも興味深く読んでいたと予想される。自ずと「激落ち系」は注意して使わなければ、対象物を傷つける可能性があるが、正しい使用法なら効果が高い製品として定着していった。
そうなれば、新製品が出たとき「お、今度はどうやって使うのかな」と自然に思うようになり、説明書きを注意して読む。使い方は上手くまとめられていて、難しいと感じない。それで、相打ちしそうな複数の自社製品を、別々の道へ誘導することが出来る。
■ 新展開の謎!
そのクロスの他に新しく売り出されたのは、堅いラーメンのような「こげ落とし」専用製品、「コゲ落ち君」だ。
これらに共通するのは、
- 「激落ちファミリー」の証しであるあの不敵な太まゆ毛、くりくりの目をしたキャラクター
- 同じく「激落ちファミリー」の証しである、特徴的な括弧
- 「激落ち」が印象的(こげ落ち君の場合は”落ち”)で、「クロス」等は小さい縦書きのレイアウト
そして、新展開のキモになるのは「ドイツ国旗が無くなったこと」だ!
ブランドとして、あのファミリーキャラクターが定着した今、もはやドイツの国旗でお客さんは認識しない。発売当初は同性能の競合他社との戦いに勝つため、様々な有力なイメージ的要素を盛り込んで、インパクトをつけなければならなかった。しかし「激落ち」が完全に定着した現在、お客さんは
「激落ち系なら大丈夫」
と瞬時に思い、他社の”まがいもの(ではないのだが)”よりこちらの製品を選ぶだろう。
■ これからの進展
こうして考えていくと、この会社は今後、掃除グッズならほとんどなんでも「激落ち〜」で売れるようになるし、新製品投入直後のお客さんからの認識度は他の追随を許さない程高くなるはずだ。「お、激落ち系の新製品だ」と思われるのは、ブランドが強力な証拠。
ただ、ほんとうにきれいになる「驚き」のある製品を出し続けていかないと、グラフが右下がりになっていく日も来るだろう。
個人的には、販促の名目で、激落ち君携帯ストラップとか出てきたら笑える。あんな豆腐みたいなのを皆がぶら下げてたら嫌かも。