■ 真の”こだわり”の発見
メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。
このメールマガジンの初回に「そろそろこだわりもお終いだ」という内容で、「こだわり」とは何かを考えた。
その後、4カ月が過ぎたが「こだわり」の勢いはまだまだ続いている。ソニーのような大企業でもまだやっている。しかし否定ばかりでは全然面白くないので、今回は「こだわり」宣伝の上を行く実例をあげて考えてみたい。
■ こだわりとは?
こだわりとは本来マイナスなことに使われていたらしい。岩波国語辞典によると
『ちょっとしたことにとらわれる。拘泥する。「小事に―」▽元来は良い意味でない。近頃は特別の思い入れがあることも言う。』
近年の使われ方だけを対象にすれば、キーワードは「特別の思い入れ」だ。
■ 本当に”こだわって”いるのか?
初回で話したとおり、最近はネコも杓子もこだわっている。でも、「〜にとことんこだわって作りました」「使いやすさにこだわった商品です」と言うばかりで、”どうこだわったのか”を発表しないのかが不思議なのだ。
これが「こだわり宣伝」の弱点。こだわった、こだわったと言っているばかりでは、何が他社と違うのか、何が問題でどう解決してきたのかが分からない。軽々しく、空々しく聞こえて、何の効果も上がらないのは当然だ。
■ ポカリスウェットのつまらないTV宣伝が
CS放送を見ていると、子供用チャンネルで「ポカリスウェット」のPRCMをやっている。内容は、まったくプロらしくなく面白くないお笑い芸人が、小学生くらいのこれまた棒読み子役たちに「水分補給」の大切さを講義形式で教え、最後に「ポカリスウェットで水分補給!」で終わるもの。これが何シリーズもあるのだが、回を重ねて悪印象が募るばかりだった。
■ アクエリアス派の僕が気になったこと
ポカリスウェットは「宇宙で撮影した世界初のTVCM」等、あまり意味のない目立ち方が好きな宣伝が多かったため好感度が低かった。しかし、このPRCM最新版には興味をひかれた。
内容はこうだ。この芸人はコンビなのだが、そのボケ役が指南役。彼いわく、「ポカリスウェットは開発段階で1000種類もの試作品を作ったんだぞ!」と偉そうにいう。子供たちは「え〜!そんなに〜?」と棒読み。指南役は「そうだ。それから、研究所の裏にある山に毎日自分たちで登って、その試作品を飲み比べたんだぞ」。子供たち「なんで〜?」。答えは大人ならすぐ分かることだが、実際の疲労状態を作りだし、その中で味や性質がどのような効果を発揮するのかを調べるためだ。
これでアクエリアス派の僕も断然ポカリスウェットが気になった。ただやっぱりあの芸人と子役は悪印象きわまりない。
■ ZIPPO の「ウィンディー」
ライターのZIPPO社は、僕のような煙草を吸わない人間にとっても魅力的な商品を持っている。
つい最近、ZIPPO社の個数限定ライターが発売された。テレビショッピングで売られていたものだが、ジッポの側面に風の中でライターで煙草に火をつける女性の姿が彫り込まれている。これはZIPPO社が1937年、初めて全米宣伝を行った時に採用した女性の図案で、いまや伝説的になっている「ウィンディー」だ。
(ウィンドプルーフ・レディーと呼ばれることもある)
教材的用途で借用 (educational pourose use)
強くて長い歴史とブランドネームをバックに存続している会社ならではの、魅力の演出としてとても面白い。ライターに興味がなくても、話のネタや、ウンチクネタにもなり、買った後の自己満足度も高い。
■ 軽自動車も
最近話題の軽オープンカー「コペン」も素晴らしく魅力的な商品説明がされている。
「Expert Center Copenは、走りを愛する熟練した高技能者の手で組み上げられます」
とされ、そのエキスパートセンターという”Copenのために新造された専用ファクトリー”で製造しているとパンフレットに書かれている。これで、この車が単なる宣伝文句以上の「こだわり」を持って作られている車であるということが一瞬で伝わってくる。もちろん安っぽい「こだわりました」なんて言葉、どこにも書いてない。そんな言葉は必要ないからだ。
■ 結局なにを見せればよいのか
本当に「こだわった」のであれば、それを見せてほしい。例えば、ポカリスウェットのように試作の段階から妥協をしなかったその事実を堂々と見せれば良いのだ。試作回数、試作品製作時間、スタッフ数、工程数、検査工程の完備、工員の熟練度、訓練の厳しさ等、言えることはいくらでもある。
本当にこだわった部分を具体的に見せることが出来ない、または本当はこだわりなんてないから、「こだわっています」と安易な言葉に落ち着いてしまうのではないだろうか?そんな宣伝には全く魅力を感じない。
■ お客さんに伝わるのはなぜか
試作回数、試作品の数を発表することで、なにが伝わるのか?古い言葉だが、その商品の背後に見える「ロマン(変化に富み、憧れをかき立てる事柄)」だ。「プロジェクトX」等の”開発物語”が人気の理由はそこだろう。
高度成長期時代のような動的な世の中が終わり、一見システムが確立し静的で無気力化してしまった時代にもかかわらず、まだ「執念」に似た思いを自分の仕事に持っている人がいる事実や、そんな人たちが突き放されたり、絶望を感じながら開発し、完成させたその商品自体に憧れる。これが本当の「こだわり」だ。だから、軽々しく「こだわりました〜」とだけ言ってる宣伝なんて全く耳に入らない。
ただし、これを発表するのは手前みそになってしまう可能性もあるため、無遠慮で自慢げな表現になったり、自嘲気味で卑屈な表現にならないよう配慮し、好感度の向上に利用すべきだ。