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 こちらは、2006年までに発行されたメールマガジンの内容です。


■ 説明するな。見せろ

メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。

 ある映画の冒頭、少年が商店街を全力で走っている。狭い道を器用に走り抜けてゆく。八百屋のオヤジに声をかけられ、少年は短く言葉を返す。オヤジは怒った顔になり大根を振り上げるが、少年はいたずらっぽく”あっかんべー”をして走り去る。その後ろ姿を首を左右に振りながら笑顔で見送るオヤジ。

 突然なんのことかと思われたかもしれないが、このシーンを無音声で想像してもらいたい。オヤジと少年の関係が見えるだろうか?

■ 説明せずに伝わること

 まず、この舞台となる街は少年の勝手知ったる場所であることが分かる。それは、子供が商店街を器用に走り抜けていくということは、土地勘があるに違いないと予想させるからだ。

 次に、オヤジさんとは顔見知りで、身近な関係であることが、少年とオヤジの言葉とあっかんべーのやり取りから分かる。仮にオヤジが、顔をしかめ、舌打ちをするようであれば、少年との関係はまた違ったものになってくるはずであることは分かると思う。

■ 映画学校一年生

 映画学校に入り、最初にさせられることは「3分間の無声映画制作」だった。なぜ3分なのかといえば、スーパー8と呼ばれた映画用の8ミリフィルム一本が無編集で3分だったためだ。

 学生は、教授からある制限を課される。「”追跡”を撮ってこい」だ。何でもいいからチェイスを撮ってこなければならない。そして、「音楽以外の音声を使ってはならない」だ。

■ 「追跡」の条件

 基本的な追跡を撮影するには、まず人間が二人以上必要だ。そして、映画なのだから「追いかけ・追いかけられる理由」もいる。さて、そこで困るのはどのようにして、”理由”を映像だけで表現するか?だ。

 制作は、設定を考えるところから始まる。すべての「なぜ?」を言葉以外の方法で伝えるのだ。しかも、映画である以上、面白くなければイミがない。

■ 怠け者の質問

 この課題をもらうと次の質問をする学生が必ず出てくる。

 「ヴォイスオーバーは使ってもいいのか?」

 ヴォイスオーバー、つまりナレーションのようなものだ。たとえば冒頭のシーンを、

 「僕はこの街が大好きだ。この街のことなら隅々まで知っている。八百屋のおっさんは僕を見るといつも小言を言いたがるが、悪いやつじゃない。早く遊びに行かなきゃなんないから、相手をしてやれないけどな」

 等とまどろっこしいセリフを映像に載せたがる。しかし、ヴォイスオーバーを禁止すると、半分以上の学生が制作不可能に陥ってしまう。とにかく「表現出来ない」とあきらめる学生が多いのだ。教授はそれを知っているので、ヴォイスオーバーは許可される。

■ 追跡の理由の表現

 追跡の理由を映像で表現する方法は無数にある。

・ 犯罪捜査中の刑事が犯人を追う
・ チーズを盗んだネズミをネコが追う
・ 落とし物を落とし主に返す

 これだけいえば、トレーニングされている人でなくとも、すぐ映像化出来る。上級になると、追跡を役者一人で制作することも可能だ。例えば、

・ 得体の知れない何かに執拗に追われ、逃げる

 これはかなり難しいが、言葉なんてなくても、何でも表現可能なのだ。

■ この課題の意味

 映画は、目で楽しむものだ。1秒間24コマだとか、テレビなら約30コマの映像で楽しませる。そして、目から入ってくるビジュアル情報は、耳から入ってくる音声情報より格段に効果的に脳に伝達される。映画界には、

 「Show, Don't tell. (説明するな。見せろ)」

 という言葉がある。実はこれ、PRや宣伝とも深く関係してくるのだ。

■ 見て楽しいPR

 観光地で、工芸職人が、ガラスのブースで黙々と制作に打ち込んでいるデモを見かける。お客さんは、

 「どうやって作るんだろう?」
 「ありゃ、おめ〜。簡単そうに見えるけど難しいぞぉ!」
 「あれ、どこで売ってるのかな」

 等と、つられて会話が弾んだり、商品に興味を持ったりしはじめる。それは、普段見ることが出来ない職人の仕事を目の当たりに出来ることと、真剣に作っている姿を見て「高いと思ったけど、あんなに手が込んでいるのか」という、制作者を含めた商品の新しい価値を見いだすからだろう。

 対面販売で面白可笑しく商品を紹介するのは、エンターテイメント的要素が多いが、世の中その方法で販売出来る商品ばかりではない。工芸職人のような寡黙な魅力も「説明するな。見せろ」という映画的方法でPRすれば、とても効果がある。

 是非一度、ご自分の商売を当てはめ「説明しすぎていないか」を診断してみてほしい。

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