「バカになって聞くこと」を教えてくれたTVアナウンサーに学ぶ、話の聞き方。

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私は若い頃テレビの報道部で働いていました。男性・女性アナウンサーと一緒に取材に行く機会がたまにあり、いつも前日から楽しみにしていました。なにしろTVで見ていた美人のアナウンサーが自分と一緒の車に乗り、自分の名前を呼んでくれて、しかも独占的に話を聞いてくれるのですから、小僧だった私にとっては最高の気分です。

名古屋のテレビ局だったので、遠方の大阪で取材なんて言うと嬉しくて仕方がないわけです。アナウンサーと話すと、普段言わないことまで言ってしまうし、正直に話すことで気分が良くなることにいつか気がつきました。

アナウンサーいう人たちは大変物知りで勉強家です。
記憶力もよく、出会った方の顔や話したことをよく覚えています。

それなのに、テレビ局で働き始めた小僧の私の言うことを、初めて知ったことかのように

「へぇ~。そうなんだ。じゃあ、これはどうなの?」

と、大きく頷きながら聞いてくれるのです。
あるアナウンサーと親しくなって軽口がきけるようになったころ、私は聞いてみました。

「相手が自分が知ってることを話し始めることってあるじゃないですか?」
「うん。あるね」
「そんなとき、どうするんですか?」
「頭を白紙にして聞くの」
「話を合わせて、自分も知ってることを伝えた方が盛り上がるんじゃないんですか?」
「私はそうじゃないかも。どんなに知ってる話でも、相手の言葉の中に知らないことって出てくるもんでしょ。そこが聞きたいって思わない?」
「はい、思います」
「自分が知ってることは、相手が話しやすくするための潤滑油になることはあるかな。例えば、『それは、こういうことですか?』と反応すると相手は『そうそう』と自分の話が理解されていることを確認できる」
「なるほど」
「そうすると、必要ない説明は省けるでしょ。途中で説明入れなきゃならないって、ストレスたまるよね」

と、こんな話を教えてもらいました。
これは女性アナウンサーとの会話でしたから「頭を白紙に」というきれいな言葉で。あるスポーツ系男性アナウンサーは、

「そんなもん、バカになって聞くんだよ!」

って名古屋弁で教えてくれました。
若かった私は、知らないことって恥ずかしいことだと思っていたので、この考え方がとても気に入りました。

人と話すときは、自分が知ってることでも脇へ置いておいて、相手が話しやすい状況をつくる。

だから、当時の私はアナウンサーと話すとあんなに気持ちよかったんだなと分かりました。その手口がわかった後でも、やっぱり話すと気持ちいい。さすがは話のプロだなと、あの頃のアナウンサーより10歳近くも年上になった今でも思います。