儀式というか象徴的イベントというか、どこかに明確な区切りを持たせる意味。

子供の頃車が大好きだった私は、近所の自動車整備工場によく遊びに行きました。自動車整備工場の大切な業務の一つに

車検

があります。メカニックは入庫した車をまずスチーム洗車で表も裏も洗います。その後で必要な整備を見極める。一連の整備が終了すると一つの儀式が始まります(当時の私にはどこか厳かな儀式に見えました)。

シャシーブラックという真っ黒なスプレー塗料で車の底側を塗ります。

これは過酷な環境で傷ついたり劣化した車の底、“腹”にあたる部分の錆止めのためです。シューシューという音とともに、新車のような真っ黒でピカピカの“腹”になります。

そして、要所のボルトに黄色のペンキを塗っていく。
綺麗に塗るわけではありません、ボルトにチョンチョンと塗料を着けていくだけ。

ここで大切なのは、ボルトを締めたら塗る、締めたら塗る、という手順です。全部が終わってから塗るわけではありません。

「ボルトを締めました」という自己確認なのだそうです。

これは法的に必要なことではありません。ユーザー車検をした時、シャシーブラックやこの黄色いペンキがなくても車検は通りました。

あくまでも、整備工場の自主的な確認工程なのです。
だから、やはり儀式なのです。

ただし、この黄色いペンキやシャシーブラックを車のオーナーが見ることはまずありません。車検場で、「ちゃんと整備されてるな」とみられるだけ。なんとなく寂しいですが、整備工場はこうして整備の信頼性を高く保っています。

この「儀式」を家づくりに取り入れてみたら面白いのでは?

家づくりでは棟上げ後にそこらじゅうに取り付けられたボルトを締めますよね?車のような金属とは違い一度締めるだけではなく、壁を貼る前の段階で木が落ち着いたり馴染んだら何度か増し締めすると思います。今は木痩せに追随して締め付けていくボルトもあるそうですが、それでも必ず締める。

その最後の締め付けを行う時、施主さまをお呼びして一緒に確認していただくのはどうでしょうか?

全部やっていては時間がかかりすぎますから、象徴として一つ、またはいくつかのボルトを選ぶ。できれば1階の安全なところを選んで、締め付け式を行う。そして、黄色いペンキをチョンと着けてもらうだけ。

それがすべてのボルトが完璧に締まったという儀式になって、視覚的にも安心感が出ます。実際に締め付ける必要もありません。神社の儀式でも鍬を入れる動作をするだけ、とかありますよね。あの感じで、既に締め付けが終わっているボルトにスパナをかけて、ぐっと締める動作をしてもらう。

そこで写真撮影を行う。
途中の確認やご要望をここでしっかりと聞いておけば、クレームを減らすことにも役立ちそうです。
できるだけ、厳かな感じで行ってくださいね。
印象的な儀式を演出して、一つの区切りの達成感を感じてもらう。

締め付けるという行動にも、ペンキを塗ることにも実用的な意味はありません。でも、儀式や象徴的なイベントは、ある一区切りを明確にしてくれますし、どこか神聖な印象を与えます。

現場でなにか儀式的に使えそうなこと、ありませんか?
建築期間の要所要所で明確な区切りを持たせる“儀式”を行うことで、

「ここまでで問題はありませんね?」
「では、次の工程に進みます!」

と作る側も施主さまも安心できるのではないでしょうか。