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 こちらは、2006年までに発行されたメールマガジンの内容です。


■ 「おやじの背中」のカラクリ

メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。

■ お客さんが慎重な時代

 今、お客さんは物事に慎重になっている。ものを買うこと、買う場所を決めること、買ったものの質の見極め。言い換えれば、とても意地悪になっている。

 「当社の製品はこんなに良い!」と言えば、「宣伝だから上手いことばかり言う」とかえすだろうし、「こだわっています!」と言えば、「どこも一緒でしょ」と手を振る。

■ お客さんに「必要」が生じていないときが仕掛け時

 取扱っているものの価格が高い安いにかかわらず、お客さんは宣伝広告を見てすっ飛んでこない。僕は安売りには反対なので、大安売りチラシの話はこの際横へ置く。大切なのは、お客さんに「必要」が生じていないときから、お客さんのアタマの中に自社が残るようにしていく作戦だ。

 つまり「今必要無いものを、今売り込む」のではなく、「必要になったとき選択肢にあがる会社にする」ことが大切なのだ。

■ 強烈な個性を発する会社

 僕の行動範囲内に面白い会社がある。昔からTOTOの製品を扱っている会社なのだが、こんな感じ。

 一見普通の小さい会社だ。3階建ての青くて四角い倉庫併設建築物。しかし、壁に点々と白い丸いものがぶら下がっているのが見えるだろうか。ちょっと拡大してみると、こうなる。

 この会社は少なくとも、ここ10数年このPRを続けている。大通りに面した建物の壁に20個の小便器が設置されているのだ。このオブジェ(?)を設置する費用はかなりのものだったはず。丁寧に、アーク灯の照明まであるところに、この会社の真剣さが伺える。

 だが、僕はこの程度のことに驚いたわけではない。ちょっとここで、次の写真を見て欲しい。明るく抜けた部分に、男が立っているのが分かるだろうか?。

 信号待ちしている人ではない。この交差点を青い建物に向かって歩いていく丁度正面にこの人は立っている。拡大してみる。

 ご覧の通り、この建物の壁面には小便器が設置されていて、その一つに男性が立ち小便をしている人形が立てられているのだ。残念ながら車線の具合で、信号に車が引っ掛かった場合、この人は見えないが、横断歩道をこの会社に向かっていく歩行者の真正面にこの人形がある。

 丁度良い高さに3器ある小便器は使用不可。それでもまん中の便器には水道の配管まで丁寧に取り付けられている。そして、写真左端には小さな小便小僧が立っている。

 この人形をもう少し拡大してみる。おじさんの表情を見てほしい。これが信号を渡る正面に立っている。

■ 一見おふざけにしか見えない戦略

 これに何の意味があるのか。おそらく経営者に聞けば「地域の方にユーモアのある看板を楽しんでもらいたい」みたいなことを言うだろう。しかし僕はそうは思わない。

 一般の人が、TOTOの製品を必要とする時が人生の中に何度あるか。昔なら、和式から洋式への変更時。いまなら、リフォーム、新築、増築時。考えてみても、それほど回数があるわけではない。しかも、陶器の会社は他にも色々ある。

■ 「トイレが壊れた!」

 例えば、トイレの壁に棚を取り付けてあって、何かの拍子に重いものが落下したとする。トイレは陶器だから、割れたり欠けたりすることも考えられる。さあ、その時この家族は何を思うだろう?

「トイレが割れてまった! どこで新しい便器を買えばいいの」

「あそこに、トイレ屋あったがや」

「あのおじさんが立っとる・・・・?」

「そうそう立ち小便。たしか名前は・・・(この会社は非常に覚えやすい名前である)」

 これであの会社は、この家族にとって人生に数回しかない「トイレ新調」の機会を自社のものにすることになる。しかも、こんな急ぎの場合には、メーカーをゆっくり選んでは居られないから、いきおい印象の強い会社が選択される。

■ その時他の会社は?

 この近所にも陶器を扱っている会社はあるだろう。しかし、残念なことに大会社の行うPRをそのままスケールダウンして継投しているだけのことが多い。CMタレントのポスターを入り口に貼り、少しでも「おしゃれ」な会社に見せる努力をする。一生懸命、アタマに残らない努力と、芸能人の人気獲得のお手伝いをしているのだ。

■ 経営者が心配すること

 経営者は社員が働きたい、働きやすい環境を作る事にも留意しなければならない。仮に突然「明日から社屋の壁に小便器を掲げ、立ち小便おやじの人形を置く」といったら、社員は猛反対するだろう。理由は、「人に言えない」「かっこわるい」からだ。

 今回写真で紹介した会社は、おそらく社長がユーモアの塊のような人で、このディスプレーを信念を持ってやっている。社員もそれを理解して、笑い飛ばしているのだろう。知り合いにだって「ウチの会社ねぇ・・・」と笑いながら説明し、「ウチの会社」ということにある種の誇りを持っているにちがいない。これはもちろん予想だから、内情は全く違う可能性も高い。

 しかし、はたから見てそんな印象があるのだから、有利に使うべきだ。トイレが壊れたら「面白い会社」にお願いするだろう。

■ 自社への応用は出来るか?

 ここまでユーモアを効かさなくてもアタマに残る方法はある。むしろ、自社にあった印象付けをしていかないと、現実とのギャップがお客さん離れを引き起こす可能性も高いため、綿密にプランを練る必要がある。それには、自分の会社がどんな会社なのか、よく理解しなければならない。そのバランスが大切だ。

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