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 こちらは、2006年までに発行されたメールマガジンの内容です。


■ ロサンゼルス看板事情

メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。

 今回は、日本から離れて海外での宣伝法について考えてみたい。これらは最新情報ではないことを最初にお断りしておく。

 アメリカにいたときのこと、ディズニーランドの近くに住んでいた僕は、大学に通うのにロサンゼルスへ向かう5番フリーウェイを使っていた。この道は、ロスへの通勤・通学、その向こうのハリウッドへの通勤者が多く走る。車で郊外から通う人が多いため、裕福な層も多い。当然のように、その5番沿いには、巨大看板が多く掲げられている。

■ ロサンゼルスの看板

 まず、ロサンゼルスの宣伝地盤について説明したい。「他人種」の住む町の筆頭といえるロサンゼルス。この街の面白い所は、人種ごとに住んでいるエリアが”すっぱり”別れること。と同時に、所得でもくっきり居住地が変わること。

 つまり、メキシコ人が多く住む地区には英語の看板ではなく、スペイン語の看板がたっていたりする。この傾向のある場所は、概ね所得が少ない人が住むエリアになる。その周辺には「歯磨き粉」や「洗剤」の看板が掲げられる。所得の多い人の住む地域(または、その地域へ近づく道)には、ブランド広告、日本製家電メーカーの看板がならぶ。

■ 看板であそぶ会社もあった

 OJ・シンプソンの裁判があったころ、街を走っていると黒地に白で「Guilty(有罪)」と書かれた看板と「Innocent(無罪)」と白地に黒でかかれた看板が登場した。これは「陪審員にあらぬ先入観を植え付けるおそれがある」として話題になった。話題になったが何の宣伝もしていない。

 その看板を掲げた広告代理店へはTVインタビューの申し込みがあり、パブリシティーとしての役割は果たしただろう。しかし、看板の制作費に見合っただけの費用対効果があったかの発表はもちろんない。

■ 金持ちの道楽

 匿名の金持ちがロス中の看板で遊ぶ、という妙な企画もあった。ある日街の至る所のビルボードに、宣伝主の名前が一切ないシンプルな宣伝(?)が出現した。そこには有名な詩人による詩の一節が書かれていた。それぞれの看板には別々の詩が。

 これもテレビで取り上げられたが、宣伝主は完全匿名。ただ「荒れた世の中に素晴らしい詩を見せることで、心の豊かさの大切さを思い出してもらえれば」というコメントだけが発表された。

■ でもやはり看板は「宣伝効果」を狙う

 毎週変動する当選金額を告知する宝くじ看板や、ネバダへ向かう砂漠の中に立つ湯気を出すビッグマック、”ストリッパーが自分を有名にする”ためにサンセット・ブルバードに掲げている個人看板等、アイデアを凝らし宣伝効果を狙う看板が多い。そのなかでも、最も印象的だった看板がある。

■ 野ざらし、雨ざらしのズボン

 ロスの大動脈、5番フリーウェイ沿いにひときわ高く掲げられた巨大看板に、ある日一着のズボンが貼り付けられた。幅15メートルはある白い看板のど真ん中に、実物大のズボン。走る車から目を細めて「なんだあれ。ズボン?」という程度の大きさにしかみえない。それ以来何日もの間、そのズボンは看板の上で雨ざらしになっていった。そこを通る誰もが「あれはなんだろう?いたずらか?」と思い始め、学校や職場で「変な看板があってさぁ」と噂を始めたある日の朝、看板に変化が起きた。

■ ひざを打つ宣伝

 その日、僕がフリーウェイを走っていくと、例の看板のズボンの下に何やら小さな文字が書き込まれていた。意味の分からない看板にストレス気味だった僕は、なんだかほっとした気分になって、走りながらそれを凝視した。

 「Nice pants(良いパンツ)」

 これだけ。そして、看板の右下隅には「Dockers」と書いてある。アパレルメーカーの宣伝だったのだ。カーキのパンツで有名な、リーバイスの関連会社が、市場シェアの拡大を目指して打ったアイデア宣伝。この日を皮切りに、テレビ・ラジオのメディアミックス宣伝作戦が始まった。非常に効果が高かった宣伝の一つだ。シェアは一気に高まった。

■ まんまと乗せられたフリーウェイユーザー達

 看板にズボンが一本しか無かったころから、その”変な看板を見た”というのは学校での良い話のネタになった。皆が「それ何なの?」と聞きたがり「分からないけど、ズボンが一本だけなんだ」と話題になった。

 その答えが分かった日、そこら中で

 「前から言ってたあの看板ね、正体が分かったよ」
 「え、なになに?なんだったの?」

 という会話がされたことだろう。秘密と不思議を提供し、その種明かしをして安心させ、知らぬまにクチコミを発生させたこの手法には感心する。あまりの上手さにまんまと僕らは乗せられた。しかし、気分は悪くなかった。

■ 総スカンを食らう可能性もあった

 例えば、その他にも「結婚してくれ」というプロポーズ看板や、「先日はごめん。許してくれるなら電話してくれ」という謝り看板がロスにはたまに出現する。しかし、仮に企業がこれを利用して看板を出し、最初は個人看板の様相を持たせながら、「実はウチでした〜!なんか買ってください」と種明かしをしたらどうだろう?

 これは大失敗を避けられない。たちまちその企業の悪評が立ち「人々の純粋な心を利用した会社」として覚えられるだろう。その点、Dockers の宣伝は後味が良く、さわやかだった。抱えていた問題が一気に解決したような爽快感があった。

■ どうしても話題にしたくなる宣伝

 日本にも面白い宣伝は多い。名古屋にはいつもテレビと新聞の宣伝で話題を独占する名物カメラ屋があるし、癒し系やセクシー女優より「ノバうさぎ」の宣伝効果が高いといわれだした。それらに共通しているのは「ユーモア」であり「意外性」であり「オチへの期待」である。

 笑いと、話のネタを提供しながら宣伝することも広告の使命なのかもしれない。

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