■ そこに書いてあるでしょ?
メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。
経営者と話すとき、十中八九の方が同じ落とし穴にはまっていると感じる。こういうことだ。
案内書等を見せてもらうと、あまりぱっとしない写真の横にこまごまと説明が書いてある。多くは製品の優位性を謳ったもので、いかに自社製品がすぐれているのか、を説明している。読めば「なるほど」と納得出来る内容だ。
ここで重要なのは、”読めば”という前提があるということ。
■ 「そこに書いてあるでしょ?」
僕は仕事ならじっくり目を通すが、仕事でなく雑談半分の場合は、普通のお客さんと同じことをする。まず写真を見る。これがデジカメでてきとうに撮ったものだとしたら興味がわかない。それでも付き合いがあるから、さらさらっと目を通して、裏のページを一応見る、で表に戻って時折裏を返して見るそぶりをしながら、同時に相手の話に相づちを打つ。興味が無いならなおさらそうなる。
その後、話をしていて、僕が「ああ、そうなんですか。知らなかったです」と言うと、決まって出てくるちょっと不機嫌な言葉が、
「そこに書いてあるでしょ?」だ。
■ 目を通す=読む ではない
僕は、確かに目を通した。しかし、内容は全くアタマに入ってきていない。写真があれば、写真を最初に見て、次に大きい見出しを見て、細かい字が並んでいたら、面倒くさいから後回し。多くの場合は後でも読まない。目を通したからといって「読んだ」ことにはならないし、記憶にも残らない。
例えばこれは看板やエキシビションの会場作りでも同じことだろう。ぱっとみて興味をひかれなければ、そこでお客さんは別の物へ目を奪われる。折角の自社を印象づけるチャンスを逃してしまっている。
■ 書いてあることは当てにならない
たとえば子供の運動会を撮影したい人が、気軽に撮影出来るデジタル・ビデオカメラを探している。条件は、小さく、電池が長持ちして、そこそこの画像が撮れること。プロでもなければ、画質の良し悪しなど分からない。アマチュアのお客さんが数台の候補の画質を比較した場合、当人は「画質が良い悪い」の判断をしているつもりでも、結局「この画質は好き嫌い」の判断をしていることが多いように感じる。つまり、お客さんの主観で左右されてしまう部分なので、各メーカーはそれぞれの発色やシャープさの哲学のようなものを持って開発し、あとは好みにゆだねている。ある人は良いと言い、ある人は同じものを悪いという。これがカタログスペックと現実のギャップになることを実はお客さん自身が感覚的に知っている。
■ カタログは楽しくもあり、苦痛でもある
さてそのカタログを見る。ここが1番楽しいと同時に、苦痛を感じる部分だろう。
まずは楽しい部分。ページをめくりながら、色々なカメラの写真を見て、実物の大きさを想像したり、質感を想像したり、様々な使用場面を思い浮かべる。最近の「オープン価格」なる意味不明な表示のため、価格比較は困難になってきたが、だいたいの候補が絞られてくる。その中に、「限定色」という価値や「世界最小」「運動会無敵モデル」等の差別化がされていたら、なんとなく欲しくなってくる。
次に苦痛な部分。メーカーごとに名称が違う同じ目的の機能や、帯に短しタスキに長しの品々。気になる製品のスペック表を並べてみてみても比較対照がやりにくい。細かい文字と、素人には意味不明の数値にいいかげん飽きてくる。すると「最低限の機能をチェックしておけば良いや」という気持ちになってくる。静止画は撮れるのか、使用出来るメモリーのタイプは何か、ズームは何倍か。その程度の条件が満たされていれば「まあ、これで良さそうだ」と落ち着く。
■ 性能的には1番じゃなくてもいい
商品の性能ばかりを謳っていると、こういうお客さんの選択肢から外れることになるだろう。先程の例のように、一般のお客さんにとって通常購入の決め手とされるはずの”スペック”が完全に無視されているのが現状なのだ。つまり、性能的に1番でなくても、初見で好印象をもってもらえればそれで勝てる可能性がぐっと高くなる。
実は、現在市場に「限定色の白で、小さいビデオカメラ」がある。今までの「ビデオカメラ」にない色ということで、「白いから欲しい」と買い求めるお客さんもいるということだ。このカメラ、性能的には貧弱であるにもかかわらず、とても魅力的である。
■ お客さんは好意的ではないと意識する
家族であれば、細かく詳細を書き連ねたカタログやチラシを隅々まで見て、
「良いね、これ。お父さんの会社の製品って凄いね」
ぐらいのことを言ってくれるかもしれない。本心かもしれないし、お父さんのやる気を削がないための心遣いかもしれない。本心を言うと機嫌が悪くなるので、褒める以外のことはしない習慣になっているのかもしれない。
お客さんといえど、相手は他人だ。自分の会社に特別な愛着を持ってくれているわけではない。どんなに一生懸命細かく詳細を説明しても、そこを読んでくれるとは限らない。パッと目をひくか、読みやすいか、簡単か、好印象か、そうでなければ「面倒臭い」と買う気も失せてしまうのがお客さんだ。
製品や会社の魅力を、脳に1番近い”イメージ”で伝えることが出来れば、お客さんの考える負担が減り、選択後の充足感も大きくなる。
「そこに書いてあるでしょ?」
と全てのお客さんに言って回ることは不可能なのだ。