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 こちらは、2006年までに発行されたメールマガジンの内容です。


■ 怠け者=賢い人、は成り立つ

メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。

 数ある宣伝広告・TVCMの中に、「なるほど!」とひざを打ちたくなるようなものがある。そんなのはめったにないので、今回は最近見つけたコマーシャルを分析してみたい。

■ ニチレイの冷凍食品CM

 朝、二人の娘のために弁当を作る母親が主人公。弁当の素材として使っているのは「冷凍食品」だ。あっためて詰めるだけのはずなのだが、以前の

 「忙しい朝でも、楽々お弁当作り(しかも子供は喜んで全部食う)」

 という明るい印象の宣伝とどうも様子が違う。

 映像はレトロな雰囲気の「少し暗めの台所」だ。今どき誰もが付けたがる光あふれる対面キッチンというより、どことなく昭和を思い起こさせる暗さなのだ。しかも、とても厳しく賢いイメージの母親が弁当を作っている。

■ お弁当を食べるのは娘

 二人の娘はそれぞれ弁当に対しての感覚が違っていて面白い。

 「何が入っているのか今見たい」     姉
 「フタを開けるのが喜びだから見ない」  妹

 しかし共通しているのは、二人とも母親が作る弁当をとても楽しみにしているということ。誰が作っても同じ味の弁当であるはずなのだが、そんなことは微塵も感じさせない。

 そしてそのコマーシャルは、「どこでどう生産された素材を使った食品であるのかがハッキリしている」ことを強調する。

■ かつて弁当といえば?

 弁当といえば(多くの場合)母親が味付けして作るものだった。材料を前日から下ごしらえする気合いの入った母親もいれば、当日朝バリバリと作ってしまう手際の良い母親もいた。

 しかし上手だろうが下手だろうが、弁当というものはとても時間がかかるものであり、母親の朝はとても忙しいものだった。

■ 弁当に変化が出始めた

 あるとき、みんなの弁当箱に「ミートボール」が混ざりだす。当初は母親が味付けして作る手づくりおかずの隙間を埋めるように使われた。あくまでも弁当の”一部”、わき役としての使い方だった。

 それまでもビニールに入った、お湯で温めるハンバーグをただ切って詰めた弁当を見たことがあるが、いかにも”手抜き”という雰囲気がただよっていた。ところが、同じハンバーグでもミートボールになったとたん、弁当箱が明るくなった。

■ 冷凍食品=タイムセーバー=手抜き?

 しかし、当時の冷凍食品の味はまだまだ悪く、あくまでも家事の時間を短縮出来る、母親の味方という印象があった。

 味は劣るが、見た目に悲壮感がなく、時間も短縮出来るこんなに便利なものはない! それが売り手のセールスポイントだった。雑誌などでも、いかに冷凍食品を使って楽しい弁当を作るか、といった特集が組まれ普及していった。(楽しい弁当は、美味しい弁当とは違う!)

■ いつまでもそれでいいはずがない

 いくら「時間が短縮できる」といっても、そこには”手抜きである罪悪感”のようなものがあるのではないか。かといって、いまさら全てを手づくりする弁当作りに戻ることは難しいだろう。

 その罪悪感を消し去る方法の1つとして、ニチレイはとても効果的な方法を考え出した。味を良くするのは言わずもがな。

■ 定義を変えてしまえ!

 それまでの母親は

 「美味しい料理で、子供を喜ばせることが出来る」

 必要があった。しかし、これは労力も時間も必要とするし、なにより今どきの料理が苦手な世代の母親にとってはたいへんマズイ”定義”だ。

 ならば、その定義をもっと”お手軽で、自尊心も満足出来る”ものに変えることが出来たとしたら、冷凍食品業界にとってはしめたものであるはず。

■ これからの母親像

 母親が料理上手である時代は終わり、これからの母親は愛情を込めて「作る」のではなく、愛情を込めて「選ぶ」時代になったという方向へ持って行きたい。

 だから、メーカーは海外の生産農家をどう選択しているかを紹介することで、ニチレイの食品を選んでいる母親は、自分の子供が食べる物を賢く選んでいる”良い母親である”というイメージを持たせるCMにしている。

 自分たちの製造する製品が、世間でどう思われているのかを冷静に受け止め、その先入観を上手く味方につけていく方法もあるのだという良い例だといえる。

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