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 こちらは、2006年までに発行されたメールマガジンの内容です。


■ 気の利いた言葉

メールマガジンからいらした方、ここが「アタマに残る中小企業」で間違いないです。

 僕は「こだわりの」とか「頑固おやじの」とか「逸品」といった使い古された言葉が大嫌いだ。普通の会話で使う分には問題ないが、これを宣伝広告やキャッチコピーに使っているのを見ると、

 「アタマ使うのを放棄してるな」

と思ってしまう。それほど安易な言葉になってしまっている。とはいえ、この言葉を最初にコピーに使った人は偉い!

■ 最近のCMで気になった言葉

 気になったというより、むしろアタマにすり込まれてしまった言葉がある。

 「存外(ぞんがい)」

 もう、これで何のCMの言葉か分かってしまうくらいアタマから離れない言葉だ。最近はアニメでもCMでも、すぐに”大阪弁・田舎言葉”等の方言に安易な面白さとキャラクターを求める傾向があるが、れっきとした日本語で普通に使われてこなかった言葉にこれほど照明を当てたCMは久しぶりだ。

 女性タレント達が、

 「存外おいしいよね」

とか言ってる光景は、日本語的に全く間違っていないのに、とても面白い。しかも、その言葉の意味をなかなか教えてくれない所にこちらの興味を惹きつけておく仕掛けがある。この単語の”過去の地位”をよく理解して作られているCMだ。(これからは違う!)

■ なぜか優しい、日本的な言い回し

 もう一つ最近僕が凄く好きなCMがある。料理に使うビン入りダシの宣伝で、若い板前が誰かの家のキッチンで、

 「奥さん、味のほう、だいたいやっておきました」

 と言って瓶を差し出す。

 なんのことはないコマーシャルだけど、この言葉の響きがとても懐かしい。板前だから味が”だいたい”なんてことはないはず。もう”100%”終わっている味付けを、日本人的な控えめでさらりとした言い方で『だいたいやっておきました』という。優しい心遣いを感じる。

■ 何が心をつかむのか?

 「これ一本で、もうなにもすることはありません!」
 「味を極めた○○」

なんて言われてしまうと、こちらはいかにも”出来合いのもの”を使って手抜きをしている感じがしてしまう。しかもたとえ美味しくたって、”どこの食卓でも同じ味”ってのが気に入らない。ところが、

 「最後の仕上げは私の責任」

と思わせる『だいたいやっておきました』は、”母親の味”が守られるという印象がプラスに働いているからいい。それに日本語ってキレイだな!と思わせてくれる。

■ 満足感の完了を促す

 実際主婦が仕上げる余地がどれほどあるのか不明だが、この商品を買った人の多くが”最後の仕上”をお約束のように加えるに違いない。そこで初めて家庭の味が誕生し、この商品を買って使った満足感は完了する。

 以前冷凍食品の企業が「手抜きをするための出来合い品」から「素材を賢く選ぶ母親」イメージに転換しようとしていると書いたことがあったが、これも”出来合い品”を使うマイナスイメージを見事に払拭している。

■ 世の天の邪鬼達が世界を引っ張る

 言葉を常に探し続けている職業人の中にも数種の人種がいる。

・ 世に普通にあることばを適当に選ぶ人(これがほとんど)
・ 人が目を向けない言葉を発掘して、照明を当てる(本物のプロ)

 後者のような人は、”天の邪鬼”的な性質を持っている本物のクリエイターだと言える。そういう人達が発掘した「”存外”って言葉が面白いぞ!」という感覚が世間で認められた後、前者がキワモノ言葉の発掘を開始する。世の中はこういう構図になっていると思う。以後”存外CM”のような、斜陽の日本語発掘CMが流行っても不思議はない。

■ 気の利いた言葉を知りたい

 気の利いた言葉を見つけるためには、今流行っている本や場所、イベント等にどれだけ精通していても全く意味がない。僕はしたり顔の人達に「新しいモノを見て、流行を知らなければならない」と言われることがある。それは単に人の後を追ってるだけ。情報として知っておくことは必要でも、どっぷり浸かってしまっては自己喪失だ。

 世の中で話題に上る人は、何年もの間他人が全く興味も示さなかった事に興味を示し、雑音に気を取られることなく深め続け、あるときそれを表現する方法を発見し、脚光を浴び、話題になり、真似をする追随者を得ていく。そして追随者は自分を”先駆者”と勘違いして自慢気に振る舞う。世の中、流れはいつもこんなもの。

 「ハッ」とする”何か”を見つけるために、常に人と違う方向を向いている必要がある。

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