「考える」より「知っている」ことの方が大切な時だってあるのです。

以前、家を設計するとき、動線ということを盛んにおっしゃる経営者がいました。キッチンをデザインする時には、

「お客さんの使い勝手をとことん考える」

とおっしゃっていましたが、しばらくしてある言葉をその経営者から聞いた時、違和感を感じたことがありました。

「自分の家は“男子厨房に入らず”という教育方針だったから、今も家事は全然やらない」

家事をしない方が家事動線を設計することは、結局、ただの想像でしかありません。
工務店のスタッフと動線の話をするとき、こんな言葉が出てきます。

「まず冷蔵庫から野菜を出して、洗って、そして切る。その後火を使う」

それに合わせてキッチンのレイアウトを考える。
ですが、これでは良いキッチンにはならないと思います。

著者の家は特別な動線を考えて作られたわけではなく、家のデザインと部屋の寸法に合わせて既製品を取り付けました。でも、先ほどの動線レイアウトの要素は全く問題ないです。キッチンメーカーで考えられた動線がありますから。

それより何より大切だったのは、我が家ではキッチン家電を多用するということ。

ハンドミキサー
フードプロセッサー
ジューサー

これらの家電を使った経験や、家事経験の無い方が、私たちにピッタリのキッチンを想像でデザインすることはとてもむずかしいと思います。

フードプロセッサーを使う時には、家電用のコンセントが必要ですし、料理の内容によっては何種類もの野菜をプロセスしますから、それらを別々のバットに別けて置くのか、ソフリット作りのように混ぜるための大きなボールが一つだけ必要なのか。その作業をしながら肉の下ごしらえなどを同時進行させるなら、その場所の確保はどうなってる?

キッチンを使ったことがないと、メニューごとや平日・週末の人手の有無など、色んなシチュエーションを考えられません。先ほどの出す・洗う・切る・焼くなんて法則は実はあまり役に立たないのです。

それでも経験値で「知っているのと同様のことができる」と考えると、お客さまに見透かされてしまいます。現在アパート暮らしであれば、これまでより便利で広くなったというだけで「使いやすい」と感じるかもしれませんが、使っていくうちに「あれ・・・?」とストレスを感じるようになります。

「考える」より、「知っている」ことのほうが大切なことがあるんです。
キッチンだけでなく、趣味部屋なども同様ですね。
かならず経験者を担当にするか、自分で経験して体験から話せるようにしておいてください。